日本の性教育への課題ー生理準備ボックスを通して、大人も子供もハッピーな性教育を伝えていきたい

公開日 2021-12-10 更新日 2021-12-10

READYBOX代表 三上 麗さん

高校時代に性被害を経験し、それ以降は性被害の啓発活動や性教育の大切さの発信を始める。大学時代は、人身取引被害者支援をするNPO法人ライトハウス広報インターン、学生団体コンゴの性暴力と紛争を考える会のメンバーとして活動。大学4年生からは、NPO法人ピルコンにてフェローとして小中高大学生への性教育の公演を行い自分を大切にするための情報提供に努めてきた。

<その他活動>
・YouTube「うららちゃんねる」
・「Miss Earth JAPAN 2020」に東京大会ファイナリストとして出場
・家庭でできる性教育サイト「命育(めいいく)」サポーター

昨年10月より、はじめての生理準備BOX「READY BOX(レディーボックス)」の開発プロジェクトを立ち上げ、今年2021年5月よりCAMPFIREにてクラウドファンディングを行い150%以上を達成。10月より一般社団法人化をし活動中。

自身の経験から性教育の重要さを感じ、性教育や月経教育について強い思いをもっている三上さん。「はじめての生理準備ボックス」を開発することになったきっかけや、クラウドファンディングへの挑戦、今後の展開についてインタビューさせていただきました。

はじめての生理準備ボックスの話から、日本の性教育の課題が見えてきました。

自身の体験から感じた性教育の重要性

生理について何かしなきゃと思ったきっかけとして、高校生のときに性被害に遭ったことがありました。その当時は、相手に「いやだ」と言えなくて。
傷ついたのにもかかわらず「自分が悪い」と思い込んでいて、なぜか自分を責めてしまっていました。

性被害のことは、両親や先生などの周りの大人にも相談しづらくて。
もっとしっかりと性教育を受けていたら「予防できていたかもしれない」「苦しいときに相談できていたかもしれない」と、今となっては思います。そう考えたときに、性の学びはとても大事だと思ったんです。

自分のような体験をする人が減ってほしいという思いで、性被害に遭った方のサポートをしている団体でボランティア活動をしていました。 活動をしていると「この業界から離れたくない」という思いが強くなり、自分が辛い体験をしたからこそ、性の知識を子供たちに伝えていきたいと思いました。

月経教育を変えて性教育をオープンに

ー 「はじめての生理準備ボックス」の開発のきっかけを教えてください

性暴力が無くなってほしいという思いが一番強いのですが、それを実現するためにやっていかなくてはいけないことを考えました。

私自身も性について話しづらいと思っていたので、なぜそう思っていたのかを考えていたら、性と向き合う機会が少なかったんだと気づいたんです。

学生時代の月経教育は、男女に分かれて1〜2回程度の授業だったので、隠されているように感じたし、先生も恥ずかしそうに話していた記憶があります。
「生理は、公に話すことではないんだな」という印象を、子供ながらにもちました。こういうものを使って、こうやって使うんだよ、とちゃんと時間をとって教えてもらったわけではなかったように思います。

そういったことから、生理について恥ずかしさを感じていたんだと思います。普段両親とは仲良いのですが、初めて生理がきたときは話せなくて、隠れて対処していたほどです。

ー  性教育への思いがありつつ、生理について発信しているのはなぜですか

子供の頃から性について話すことが普通だったり、困ったときに相談できる環境をつくりたいと思いました。性教育に時間をかけていくことで、性について学ぶことに抵抗がなくなると思うんです。”困ったときに相談できる”ことを伝えていく必要があると思いました。

生理は性教育の一部です。
大きくなるにつれて、体の変化、性行為、避妊のことに直面していくのにもかかわらず、生理のことすら隠されるのであれば、性の話なんてできたものじゃないと思ったんです。

子供のときに、性教育が隠すものじゃなくてオープンにできていたら、その後の性についての学びや話しやすさが変わってきますよね。若いうちに性について話す場を作るために、まずは月経教育を変えていかなくては!ということで、はじめての生理準備ボックスをつくることにしました。

早くから性を学ぶことで困ることが減り、オープンな社会ができる

ー 性教育にどのような課題をもっていますか

性教育の取り組みが遅いと思いますし、取り組む時間も少ないですよね。もっと早い時期からやっていたら、生理について困ることが減って、誰かに話すことが普通になり、両親に話す気まずさも少なくなるだろうと私の経験から思います。

北欧だと3〜4歳から性教育をしていて、データを見ると意図しない妊娠が年々減っているんです。それに、初めての性交渉での問題なども、しっかり判断してから行動するようにもなる。どうやって若い世代に知ってもらうかは日本の大きな課題です。

毎週のように性教育の授業があったら、議論したり、性について学ぶ重要さや、学ぶことが当たり前になって知識も増えていくと思うんです。性教育を始める時期の早さと量を増やすことがとても大事ですよね。日頃から性教育に触れることで、楽しく学べてオープンな社会ができるのではないかと思っています。

共感と数字の積み重ねで実現した商品構成

ー READYBOXの中の商品はどのように選定されたのですか

子供が使って安心かどうか、企業様が弊社の思いに共感してくれるか、環境への配慮がされているか、などを大事にしました。その中でも特に大事だったのは、思いに共感してくれるかでした。

「選択肢を子供たちに与えることは大事」ということと、性教育、月経教育の大切さについてもお伝えして、最終的に共感していただいた企業様にお願いをしました。
企業様とはこちらから声をかけたり、こちらの活動に気づいて声をかけてくださったり、何度もやりとりしながら”何ができるか”を一緒に考えてきました。

ー 生理準備ボックスを作る段階で苦労した点は何でしたか

ボックスの重要性や、このボックスに商品を入れたいと思ってもらえるような提案を作るのが難しかったです。
「月経教育は大事だけど、どれくらいの人が必要としているのか」という質問が企業様からあり、このような生理準備ボックスのデータが日本にはあまりなかったんです。
なので、200人くらいにアンケートを実施して、データをとることにしました。

自分の経験や思い、200人に聞いたアンケートからのデータをもとに、納得いただけるような提案をしました。そのあたりが少し苦労したかなと思います。

ー 商品の構成は結構変動しましたか?

私ひとりでプロトタイプを作っていたときからは、商品構成はかなり変わました。
生理用品に限らず、ボックスに入れたいものはたくさんあったのですが、最終的には送料の問題や仕入れ値を調べて諦めることが多かったです。

現実的に考えたときに、生理用品がメインで、プラスアルファで1〜2点他のものを入れることになりました。最終的には、デリケートゾーンウォッシュとオリジナルステッカーを入れています。

明るい性教育を!「ポップ」がテーマなレディーブック

ー レディーブック作成までの経緯を教えてください/

最初は、私が本などを読んで得た知識をもとに原稿を作りました。
ご夫婦で医師をしているアクロストンのお二人に監修をしていただき、初経のときに必要な知識や、アクロストンのお二人と話して大事だと思ったことを、何度もやりとりを重ねて整理していきました。商品同様、こちらも最初の構成からはだいぶ変わりましたね。

あと、レディーブックは半年くらいかけて作成したのですが、実はクラウドファンディング中も構成中でした(笑)

ー そうなんですね!それくらい時間をかけたレディーブック、作成するにあたって大事にしたかったことはありますか

生理=赤ちゃんができるものということと、結びつきすぎないことを大事にしました。

女性の体の話をするとき「子宮は赤ちゃんを育てる場所」などと説明されることが多いですよね。
「産まなくてはいけない」「子宮=赤ちゃん」という意識をつけないように、表現として赤ちゃんと使わないようにしました。

そうすることで「産みたい」「産みたくない」という選択を自分の考えでしやすくなると思いました。それに加えて、小学生が見てもわかるような基本的な知識が入っていること、ふりがなをつけることはマストでした。

イラスト入りで分かりやすく、カラフルで手に取りやすくというのもすごく意識しました。とにかく子供が見たときに、「おもしろそう」「楽しそう」と思わせるようなビジュアルにしたかったんです。

私自身、発達障害をもつお子様の学習指導をしていたんです。毎日教材を作っていたので、「なんだろう、これ?」と思わせることが、興味を持ってもらう一歩だと思っていました。
カラフルにしたり、キャラクターを散りばめて世界観を出すと子供も手に取りやすくなりますし、楽しんでもらえるんじゃないかということで、世界観作りもとても大事にしていました。

ー レディーブックやステッカーのキャラクターは三上さんが描いたものですか?

そうです!発想やカラフルなデザインは、海外からのインスピレーションを受けています。

はじめての生理ボックスって海外では一般的なもので、会社や個人でそれぞれ出しているんです。はじめての生理ボックスについて調べていると、デザインにパンチがあったり、カラフルだったりするので、そこからインスパイアされました。

日本の性教育は、やわらかい印象のデザインが多いイメージがあるのですが、私自身はおもしろくて日本にないような、ハッピーで明るい雰囲気を出したいという思いがありました。

クラウドファンディングに挑戦したのは多くの方に知ってもらいたかったから

ー クラウドファンディングに挑戦した理由はありますか

クラウドファンディングに挑戦することで、多くの方に認知してもらえると思いました。性教育について共感してくれたり、重要性を感じている多くの個人の方を巻き込みたかったんです。

二つめは、ニーズを知りたかったという理由があります。どのくらいの方が「生理準備ボックス」というものを必要としてくれるのか、というデータをとりたくて。今後のREADYBOXとしての動きを考えたときも、イメージがしやすくなると思いました。

ー 苦労した点はありましたか

準備段階が一番大変でした。
クラウドファンディングを出す前の動画撮影や写真撮影、クラウドファンディングに掲載する文章、公開前の宣伝(SNS、メール)など、多くの工数がありました。

準備期間としての理想は2カ月前だったのですが、メンバーみんなには本業があり、コロナ禍だったというのもあって、取り掛かれる時間が少なかったんです。いろいろ後ろ倒しになって1カ月前くらいから準備が始まりました。

ー やって良かったと思う点はありましたか

寄付していただく金額によってリターンが変わってくるのですが、「READYBOXをひとり親家庭に寄付する」というリターンが多く売れたのが大きな気づきでした。 「ひとり親で育って、生理の学びで困った経験がある」という声を聞けるなど、ニーズがあったということが見えて良かったです。準備段階は大変でしたが、得たものがすごく大きかったですね。

クラウドファンディングでの経験を通じて、自分の思いを伝えたり、経験談を話すことがとても大事だなと思いました。

READYBOX画像

ー 購入年齢層はやはり、親御さんが多いですか?

そうですね。親御さんや学校の先生が多いです。クラウドファンディングでのアンケート分析によると、40代が多かったです。

あとは、ひとり親世代、特にシングルファーザーにはニーズがあったようで「すごく助かった」との嬉しいお声がありました。

メンバー集めはSNSでー得意分野を持ち寄った組織づくり

ー 現在の組織体制について教えてください

団体のメインで動いているメンバーは理事、社員4名、ボランティア6名の合計10名います。

ー メンバーはどのように集まったのですか

去年の10月頃、私ひとりで作業を進めていたのですが、リソース的にひとりでは厳しくて、性教育に関心のあった元同僚に話をしました。そうしたら、彼女が「一緒にやろう」と言ってくれて、一緒に活動することになりました。
その後、SNSを通して「手伝ってくれる人いますか〜!」と募ってメンバーが集まったという感じです。メンバーには、それぞれの得意な分野を任せています。

ー SNSの募集ということで不安はなかったですか?

募集はSNSでしたが、ある程度関わりのある人から連絡がくるだろうなという予想はしていました。それに、知り合いの知り合いが集まっているので、特に不安を感じたことはないです。私の思いに共感してくれたり、同じような思いをもっている人にお願いしました。

YouTubeを始めたきっかけは「仲間がいるということを知ってほしかったから」

ー 三上さんのYouTubeを拝見したのですが、どのような思いで発信していますか?

「あなただけじゃないよ」「恥ずかしくないよ」ということを伝えたくて。

性病の話の動画が結構見られているんです(笑)性交渉していたら誰でもなりうることなのに、女性は性病になったらいけない、というのを感じていました。「治療が辛い」「自分の責任だと思った」「遊び人と思われる」など、性病はいけないものという意識があって人に言えないし、苦しいんですよね。

でも同じような経験をしている人が、私の動画を見たら安心すると思ったんです。人に言っていないだけで仲間もいるんだよ、ということを知ってほしいという思いがありました。声を上げられる社会をつくりたくて、YouTubeでの発信をしています。
ひとりで苦しむ人が減ったらいいなと。

でも性についての発信をすることで、いいねと同じくらいバッドもついたりもします(笑)「お前は遊び人だ」というようなコメントもきたりしましたね〜。でも、性交渉をしているのであれば性病は付きものですよね。

はじめての生理準備ボックスが日本の文化になるまで活動していきたい

ー 今後の展開について教えてください

はじめての生理準備ボックスに関しては日本の文化くらいになるまでやりたいですね。生理といえば「はじめての生理準備ボックス」というくらいまで!

海外の方のYouTubeで、ボックスを子供だけで作っていたり、企業や団体が作って発信をしていたりするのをよく見かけます。もしお子様が承諾の上でお祝いをするのであれば、日本の「赤飯を炊く」という文化だけではなく、ボックスを作るというお祝い方法があるという選択肢を伝えたり、当たり前になるような活動をしていきたいと思っています。

ー 具体的に何か考えていらっしゃいますか?

学校以外の場所で教育を届けていくには、ドリルを作ったり、性教育を学べるサブスクなどは考えています。今後、高校にワークショップをしに行ったり、子供たちが集まるイベントでワークショップなども予定しています。そういったものはこれからも積極的に考えていきたいですね。

ターゲットとしているお子様のいる保護者や、学校の先生などにもっと知ってもらう必要があると思っていて。区民センターやキッズセンター、百貨店などに置いてもらうことや広告を出すことなども考えています。

月経教育を含めた性教育については、何度も伝えていくことでその重要性を認知してもらえると思っています。ECサイトだけではなく、色んな場所にボックスを置いてもらうことができたらと思います。

親御さんの中で、そこまで時間をとって教えることができなかったり、教えることに自信がなく教えられるか分からない、思春期に入っていてそういう話ができないなどで悩んでいる方が多くいると思います。 "子供に伝える言葉選びが難しい"とハードルを感じている人もいるようです。親御さんがどれだけ楽できるかという点でも、親御さんにREADYBOXを知ってもらいたいです。

それに、子供が親御さんから生理や性について教わらずとも理解できるような冊子があって、生理用品の選択肢を知ることができるようになると良いですよね。

学んでいて楽しくなる、大人も子供もハッピーな性教育を届けていきたいです。

三上さん写真2

まとめ

ポップを意識している三上さん自身も、画面からでも伝わってくるほど明るく笑顔が素敵な方という印象でした。

日本の学校での性教育がなかなか進まない中、明るく性教育を伝えていきたいという思いに、共感することばかりでした。性や生理は、決して隠さなくてはいけないものではないのです。子供の頃から抵抗を持たないように、他の授業と同様に性教育を行っていくことはもちろん、大人にも性教育の重要さに気づいてもらうことが大切だと、改めて感じました。

明るくて熱いエネルギーで発信されている、READYBOXさんの今後の動きに目が離せません。

READYBOX ウェブサイト(サイトからご購入可能) https://readybox.jp/

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