フェムテックを一時の流行で終わらせないために。進化し続けるライフスタイルブランド「EMILY WEEK」


EMILY WEEKコンセプター/柿沼あき子さん
「ジャーナルスタンダード」や「スピックアンドスパン」などで知られているファッションカンパニーのベイクルーズ。
実は、吸水ショーツや月経カップを扱うライフスタイルブランドを展開していたのをご存じですか?
2017年、業界のなかでもいち早くフェミニンケア商品を扱い始めた、同社のブランド「EMILY WEEK(エミリーウィーク)」が昨年リニューアルしたということで、ブランドのコンセプターである柿沼あき子さんにお話を伺いました。
世のなかでの“生理”の扱われ方が大きく変わったこの数年、生理への捉え方を変えようと取り組んできたコンセプターの目に、時代の変化はどのように映っていたのでしょうか。
ブランドリニューアルを経て、より多くの女性の悩みに応えられる存在へ

ー2021年9月にブランドリニューアルをされたそうですね。新しいブランドは、従来のコンセプトとどのように変わったのでしょうか
「EMILY WEEK」は女性のホルモンバランスのバイオリズムを軸としたライフスタイルブランドです。月経期を軸に、4週間ごとに変化する体に寄り添うアイテムをオリジナルとセレクトで提案しています。
当初は20代後半から30代前半の女性を想定してブランドを立ち上げましたが、実際には40代以上の方やお子さん用に吸水ショーツを探されているお母さんのご来店もありました。また、女性の悩みに向き合っていくなかで、身体的には男性でも性自認は女性という方や女性でも女性性を強調したくないシチュエーションなど、さまざまなニーズがあることも知り、もっと多くの女性の悩みに寄り添えるよう、ブランドの対象を広げました。
今回のリニューアルでは定番の「for 4WEEK(フォー フォーウィーク)」シリーズに加え、新たに4つのシリーズを増やしています。
成長期のティーンには「TINY(タイニー)」、授乳期まで使えるマタニティシリーズとして「for MOM(フォーマム)」、そして今年2月には、40〜50代のミドルエイジ向けの「FLOW(フロウ)」とジェンダーニュートラルを意識した「CORE(コア)」をスタートしました。
これにより、女性の一生を通じた心身の変化もサポートするブランドへと生まれ変わっています。

「TINY」のオリジナル吸水ショーツ
ー定番の「for 4WEEK」はアンダーウェアを中心に、アロマなどの雑貨もありますね。どうやって開発やセレクトをしているんですか?

「EMILY WEEK」では、生理周期に合わせて独自にテーマを設けています。
生理中で悩みの多い月経期は「RESET(リセット)」をテーマに、体を緩めリラックスできるアンダーウェアやイライラや頭痛をケアするアロマを開発しました。腹痛を和らげるカイロなどもセレクトしています。
生理が終わって活動的になる排卵期は最も体調がよい時期なので、下着もかわいいものが充実しています。「ACTIVE(アクティブ)」がテーマなので、アロマでもスポーツシーンに合うようにブレンドしました。
調整期間となる3週目は大きな悩みはないものの、体は生理に向かって下り坂になっていく時期。「NEUTRAL(ニュートラル)」をテーマにしたこの期間は休息をとることが大事だと考え、リラックスして眠れるナイトブラや、アイマスクなどを揃えています。
メンタル的に落ち込みやすい生理前は「BALANCE(バランス)」がキーワード。「幸福感を高める」極上のシルクなど、肌触りの良いアイテムを中心にしています。
タブー視される生理のイメージを覆したい!ブランドに込められたコンセプターの思い

ー「EMILY WEEK」が生まれた経緯を教えてください
「EMILY WEEK」は新規事業を提案する社内コンテストから生まれました。
コンテストに応募した当時、私はベイクルーズに転職したばかりでした。転職前はWEB会社で働いていましたが、生理の悩みはもっとオープンに語られてもよいのではないかという問題意識があり、ファッションからアプローチできないかと模索していたんです。
個人でブランドを立ち上げることも考えて試行錯誤しましたが、なかなか形にならず、まずはファッションの会社で仕組みを学ぼうと、アパレルへの入社を決めました。入社後、タイミングよく新規事業を募集するキャンペーンが始まったので、これはチャンスだと思って応募したんです。
他の候補者がファッションブランドとしての新たなアプローチを提案していたなかで、私のプレゼンテーションは異質だったと思います。ズラリと並んだ役員はほぼ全員男性で、女性が生理でどれだけ苦しんでいるのかピンとこないようでした。
けれども、女性たちが毎月どれだけ大変な思いをしているのかリアルな数字を示し、その悩みに寄り添うコンセプトを提案すると、お客さまの大半を女性が占める会社として、今まで目を向けてこなかった女性の悩みも積極的にサポートしていこうと、決断してくれました。
ー当初は会社としても異例の取り組みということで大変なことはありましたか?
事業化は決まったものの、すべてが手探りでした。たとえば、肌に密着する下着は衣服とは製造単位や製造方法、製造業者などが異なります。
まずは、キャミソールやタンクトップといったインナーに近い製品を扱う取引先に協力を頼むなど、できるところから取り組んでいきました。最初に販売したサニタリーショーツはメディアとのコラボ企画が突破口になって、ようやく実現したんです。
ー生理の悩みに改めて目を向ける人が少なかった時代に、ファッションから生理にアプローチしようと思われたのは、どういった思いがあったんですか?
WEB会社で働いていた10年前は今と違って、深夜残業も当たり前でした。不規則な生活で体調を崩したり、生理も量が増えて生理痛がひどくなったりして、私自身、生理の悩みを抱えることが増えていたんです。
当時は選択肢もほとんどなく、タンポンも怖かったので、紙ナプキン一択で乗り切っていました。でも、一生この辛さと付き合っていくのかと思った時、何かしら対策する必要を感じて、当時流行っていた布ナプキンを試してみたんですね。そうしたら、「今まで何を我慢していたんだろう」と衝撃を受けるほど生理期間を気持ちよく過ごせたんです。そこから生理に対する固定観念が崩れて「漏れたっていい、自分が心地よくいられることが一番大切」と前向きに思えるようになりました。それで他に方法がないか調べてみたら、海外では既に吸水ショーツや月経カップがあることがわかって。
生理で悩んでいるのは私だけではありません。人口の半分は女性なのに、その辛さや大変さを公然と話すことができない状況は何かが違うんじゃないか、コソコソとナプキンを渡し合うのではなく、みんなで悩みを共有できたら何か変わるんじゃないかと思いました。
タブー視されていた生理のイメージを変えるにはどうしたらいいかと考えた時、ファッションのような違った方向からのアプローチがいいのではないかと思ったんです。

生理のイメージを変えたファッションブランドが次に見据えているものとは?
ーフェムテック領域のアイテムやサービスが充実してきた今の状況をどう捉えていますか?
「EMILY WEEK」がスタートした2017年当時はフェムテック関連ブランドもほとんどありませんでした。感覚的には2019年頃から一気に“フェムテック”が広まった気がしますね。
特に印象的だったのはソフィーの#NoBagForMeキャンペーン。その辺りからポジティブな取り組みも広がってきて、私たちのブランドも雑誌などで取り上げられる機会が増えたように感じます。
今はもう、ファッションブランドがどこも吸水ショーツをつくっているぐらい、一般化してきていますよね。
ーずいぶん変わりましたよね
生理についても話しやすくなってきましたし、取り上げるメディアも増えました。最近では男性誌など今まではこのテーマを取り上げなかったような雑誌でも特集が組まれていて、生理に対する視線は明らかに変わってきていると感じます。
ー業界のトレンドをリードする立場にもなってきているなかで、今後の展望はどのようにお考えですか?
雑貨のセレクトや新シリーズの投入をして、ようやく商品が出揃ったところなので、これからブランドが長く続いていくことが大事だと考えています。
今、一気にフェムテック系ブランドが増えていますが、フェムテックを一時の流行にしてはいけないと思うんです。
吸水ショーツはこのまま日本でも根付いていきそうですが、時流にのって乱立しているフェムテック系ブランドはいずれ淘汰されていくと思います。そうしたなかで、ファッションブランドである「EMILY WEEK」がどこまでお客様の気持ちを掴み続けていけるのか。
「女性の悩みをファッションでサポートする」というブランドの精神を大事にしながら、どこまで成長していけるかが勝負だなと思っています。
EMILY WEEK オンラインストア https://baycrews.jp/brand/detail/emilyweek
【ブランドサイト】:https://ew.baycrews.co.jp/
【Instagram】:https://www.instagram.com/emilyweek/
この記事を書いた人

性教育・フェムテック領域に興味津々な20代のメンバーで構成される、ピルモット編集部による記事です。