LGBTQ+当事者が直面する病院でのトラブルとは
病気や怪我をしてしまったときや健康診断など、誰もが1度は行ったことのある病院。
そんな身近な病院が、LGBTQ+当事者にとっては課題をかかえやすい場所であることをご存知ですか?
安心して病院にかかり、治療を受けられることは、私たちが健康に生活をしていく上でもとても大切な権利の1つです。しかし、様々な理由で病院を受診するハードルが高くなってしまっているケースがあるのです。
今回は、「誰にとっても安心して生活できる社会」を考える上でとても大切な、病院とLGBTQ+について具体例を交えて説明していきます。
病院で起こりうるトラブルは、病院以外の様々な場面での課題と共通するポイントでもあるので、LGBTQ+の権利について考えるきっかけにしてみてください。
LGBTQ+が想定されていない問診票
病院を受診すると多くの場合、「問診票」に記入します。
受診した理由や、不調の概要、アレルギーの有無など診察や治療にあたって必要な情報を書き込むものですが、そのなかでLGBTQ+が想定されていないケースがまだまだあるようです。
たとえば性別欄に「男・女」の記載しかないと、トランスジェンダーやノンバイナリーの方の場合に、精神的な苦痛を感じさせてしまうことがあります。
また性別適合手術を受けた方の場合には、何に基づいて回答すればいいのかわからず、困惑してしまうことも…。
もちろん診察や治療の内容によって、出生時の性別が情報として必要な場合もありますが、そんなときには、問診票に「男・女・その他( )」などの選択肢を載せる、もしくは性自認と出生時の性別を両方聞くなどの対応をすることで、トラブルを避けることができるのではないでしょうか。
また性経験についての質問は、内容の特性上デリケートなもので、セクシュアリティ問わず答えやすい質問にする必要があります。
しかしここでも、異性愛者を前提としてしまうことで、当事者を傷つけ受診のハードルを高くしてしまう可能性があるのです。
当然、セックスの形はセクシュアリティや個人によって様々。
たとえば、必ずしもすべての人が妊娠の可能性のあるセックスをするとは限りませんし、性感染症のリスクもセックスの形によって異なります。
「性経験=男女の性交を伴うセックス」という思い込みを前提にしてしまうと、それ以外の性経験がある人の情報が漏れてしまう場合もあるのです。
診察のときなども「彼氏/彼女はいるの?」など相手の性のあり方を決めつけるような質問の仕方は避けましょう。
私たちの身体や健康に大きく関わる病院という空間だからこそ、いろんな性のあり方を持つ人を想定し、誰もが受診しやすい条件を整えることが大切です!
保険証の性別と性自認や見た目が異なる人への配慮が欠ける
トランスジェンダー当事者の場合は、保険証に記載されている性別と、性自認や見た目が異なる可能性があります。
「受付で怪訝そうな顔をされた」というようなケースや「不必要に立ち入った内容を聞かれた」というケースも多く、トランスジェンダー当事者の病院受診のハードルを高める要因となってしまっています。
参考:ヒューマン・ライツ・ウォッチ「高すぎるハードル - 日本の法律上の性別認定制度におけるトランスジェンダーへの人権侵害」
フルネーム以外に、呼ばれたい通称名があるか、または名字のみで呼ばれたいかなどを問診票に記入できるようにすることで、こうしたトラブルを避けることができます。
また、当事者によっては保険証に通称名が記載されている場合や、表の性別欄は「裏面参照」として、裏面に「戸籍上の性別」と記載されている場合があります。
「戸籍上の性別や出生時の性別と、性自認や見た目の性別が異なる人もいる」ということを病院内でも周知し、確認が必要な場合にはプライバシーに配慮した形で質問をするようにできるといいですね。
最近はプライバシー保護の観点から、名前ではなく受診番号などでアナウンスされる病院も増えてきたようです。
これは名前から想像される性別と、性自認や見た目が異なる人でも安心して受診できるシステムと言えます。
今後こうした取り組みをする病院がもっと増えていくことで、安心して病院に行ける人が増えていくのではないでしょうか?
こちらの記事では、トランスジェンダー男性の婦人科受診の課題も説明しているので、あわせて参考にしてください。
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緊急時に同性パートナーを家族として扱ってもらえない
現在の日本では、まだ同性婚が認められておらず、同性カップルが法的な結婚をすることができません。
そのため、緊急時に病院で同性パートナーを「家族」として扱ってもらえない場合が存在するのです。
実は法律では、病院での面会や病状説明を「家族に限定する」という内容は定められていないのですが、病院ごとの慣習やルール、不理解によって同性パートナーを家族として扱ってもらえないケースが起きてしまっているのです…。
実際、2019年から始まった同性婚訴訟の原告のおひとりが2021年1月にお亡くなりになったのですが、そのときパートナーの方は病院側から面会を拒否されてしまいました。
参考:同性婚裁判の原告が死去。パートナーは医師から病状説明を拒まれた | ハフポスト NEWS
他にも、緊急連絡先として同性パートナーが認められなかったり、同性カップルで子育てをしている場合には、親権を持てない親が病院の付添、保護者として認められなかったり…。
同性婚が認められていない現状と、病院側の理解不足によって、まさに命にかかわる状況で困難を抱えている方が多くいるのです。
現在では、パートナーシップ制度を導入する自治体が全国で200を超え、それらの地域の病院では、きちんと家族として扱われることも増えてきているようです。
今後さらに、多様な性のあり方/家族の形を尊重する空気や仕組みを作っていくことで、全国どこでも安心して医療にかかれる人が増えてほしいと思います。
まとめ
今回ご紹介したLGBTQ+が病院で直面するトラブルは、全体のごく一部。他にも入院時の対応や健康診断の対応など、改善すべきポイントがあります。
「誰もが受診をためらわず安心して病院に行くことができる環境」、そして「誰もが自分の意志によって健康について決定できる環境」は、私たちが安心して毎日の生活を送る上で必要不可欠の条件です。
共通して大切なのは、
- 相手の性のあり方を勝手に決めつけない
- 多様な性のあり方や家族の形を「ないこと」にしない
ということ。最近は、LGBTQ+フレンドリーな病院やオンライン診察なども少しずつ広がり、医療へのアクセスも改善しつつあります。
私たち1人ひとりが病院以外のあらゆる場面で、上記のポイントを大切にして、目の前の人の性のあり方を尊重することで、どんな性のあり方を持つ人も生きやすい社会につながるのではないでしょうか。
性のあり方によって生じる健康やケアの格差を少しずつ減らしていけるといいですね。
この記事を書いた人
1993年東京生まれ。早稲田大学卒業。編集ライター。大学在学中よりフェミニズム活動に参加し、署名活動やパフォーマンス、レクチャーなどを行う。ウェブメディア「パレットーク」副編集長をつとめる傍ら、ジェンダーやフェミニズムに関しての執筆や講演を行う。