RN先生
産婦人科医として産科・不妊症・婦人科がんまで幅広く診療に従事。「ゆりかごから墓場まで」をモットーに様々な年代の女性に寄り添った診療を心がけています。 多数の臨床・研究の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。
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産婦人科医として産科・不妊症・婦人科がんまで幅広く診療に従事。「ゆりかごから墓場まで」をモットーに様々な年代の女性に寄り添った診療を心がけています。 多数の臨床・研究の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。
前回は「骨盤底筋群」が鍛えられるのかについて、筋肉の特徴を学びながら考えてみました。
今回は骨盤底筋と腟の関係について理解を深めていきます。
前回は、骨盤底筋は腕や脚とは同じように鍛えられないということを知りました。
骨盤底筋を鍛えたいわけではないのですが、普段あまり意識しないところなので骨盤底筋が弱くて腟がゆるんでるかも、と言われると心配になります。骨盤底筋を鍛えないと、腟はゆるむんでしょうか?
お答えする前に確認をしたいことがあります。
「腟がゆるむ」というのは、どういうことをイメージされていますか?医学的に「腟のゆるみ」という言葉から想起される疾患はいくつかありますが、ご自身に病気の兆候があるわけではないですよね?
はい。手足の冷えや生理痛、生理前のイライラは多少ありますが、病院にいくほどではないと思います。
ただ腟トレのセルフチェックに出てくる「タンポンが出てくる」「筋肉が少ない」のような項目は当てはまるんですよね。「セックスを楽しめているか」と問われると、それも自信はないです。
もし骨盤底筋を鍛えるという話が、骨盤底筋が弱ったり傷ついたりすることで「内臓を支える」「排泄をコントロールする」などの役割を十分に果たせなくなるといった内容ならば、骨盤部分についての理解をさらに深めていくことが必要です。
あるいは、一般の方が性交渉の際に「腟のしまりがいい」「腟をしめる」などと言われる表現の対義語として「腟がゆるむ」と言われているのであれば、また別の話になってきます。
骨盤底筋が弱ると腟がゆるみ、最初はエッチの時に感じにくいぐらいだけど、弱り方がひどくなると尿漏れになるというようなことではないのですか?
では、ここで骨盤底筋が関係する病気の話について、もう少し詳しくお話しましょう。
骨盤は筋肉と骨でできた内臓を入れるための入れ物で、内臓を支える役割がある、と第一回で学びましたね。
はい。骨と筋肉でしっかり支えないと、内臓が重たくて皮膚だけでは支えきれず、飛び出てきてしまうということでした。
骨盤底部では、骨盤底筋とともに「第二の骨格」と呼ばれる「筋膜」や「靭帯」などが内臓を支えています。
第二回でも少し触れましたが、閉経や出産で内臓を支える組織が衰えると、子宮などの臓器が下垂してくる「骨盤臓器脱」と呼ばれる疾患が起こりやすくなります。そのひとつの子宮脱では子宮が下がってくる影響で、腟も下がってきたり飛び出してきたりすることがあります。
筋力が落ちたり筋膜が傷ついたりして入れ物がダメになると、中身を支えきれなくなるのですね。腟がゆるむというよりは、腟が押し出されるイメージでしょうか。
また、骨盤の筋肉には排泄をコントロールする役割もあります。腹圧性尿失禁や便失禁では、骨盤底筋のうち、尿道括約筋や肛門括約筋の機能低下が関係していると考えられます。
産後にくしゃみで尿漏れするようになったというような話ですよね。
健康な方であれば、咳やくしゃみで腹圧がかかって膀胱が押されても尿道を閉じる仕組みがしっかり機能するので漏れることはありません。ところが、骨盤底筋が弱って尿道を閉じる力が弱まると、くしゃみなどをした瞬間に膀胱を押す力の方が勝ってしまって、尿失禁が起こるのです。
溜まっている尿を漏れないようにする力が弱まるんですね。骨盤底筋が弱るという話ではありますが、この話には腟は出てこないですね。
ほかに腟と筋肉が関係するトラブルでは、「腟痙攣」という疾患もあります。これは女性の性機能障害のひとつです。
性交渉に対する不安など、心理的な要因が影響して挿入時に反射的に腟周辺の筋肉が痙攣すると考えられていますが、詳しい病態はまだ分かっていません
怖いという気持ちで、腟に入ってくるものを無意識にシャットアウトしてしまうんですね。
意図せず筋肉がこわばってしまうため、性交渉や婦人科の診察に影響が出ることがあります。
診察器具を入れることもできないなら、タンポンを使うのも難しそうですね。でも、この場合は骨盤底筋は弱ってはいないのですよね。
ここまでお伝えした「骨盤臓器脱」や「腹圧性尿失禁」、「腟痙攣」は「疾患」として捉えられる病的状態です。
腟がゆるむという話はひとつもなかったですし、性交渉での感度の話は出てきそうにありませんでした。
これらの骨盤が傷つくことで起こる病気と性交渉時の感覚というのは別次元の話です。
性交渉時に自分が感じにくいとか、相手が締めつけがゆるいと感じるといった話は、必ずしもこういう病気の兆候を示すものではないんですね。そもそも気持ちよさみたいな話は病気ではないわけだし、お医者さんが関わる領域でもないのかもしれませんね。
ただデータをもとに鍛えるって聞くと、医療とは違うかもしれないですけど、科学的な感じがするんです。
腟に道具を入れて、どれだけ締められるかで腟圧を測定するので、個人の感覚とは別に、スコアが出てくるわけじゃないですか。
そんな道具があるんですね。それは若い女性にとっては馴染み深いものなのですか?
身近ではあまり聞きませんが、美容意識の高い人や一部の有名人が使っているという情報は目にしますね。自分でうまく測れない人のために、美容系のクリニックでは先生が測定してくれるところもあるとか。
クリニックでの測定では、何か医療用機器を使っているのですか?
婦人科の診療ではそういった測定器を使うことはありませんが、もし医療機器であれば医療機器として認可される理由があるはずですから、医学的根拠はあると思います。
美容クリニックに行ったことがないので何を使うのかまでは詳しく分からないです。婦人科では、腟圧測定みたいな項目を見かけたことはないですし...。
実際に見ていないものに対して推測で言うことになるのですが、その測定器は日本で認可された医療機器ではないかもしれませんね。 よくある例としては、海外から輸入した機器が使われるケースです。保険のきかない自由診療では、医師の監督のもと、海外製の医療機器が使われる場合があります。
感度の高い先生が日本ではまだ認可されていないけれど、医療的な先進国から輸入された機械だという可能性もあるわけですね。
ただ良くあるのは、認可がおりているのは医療用シリコーンなど道具に使われている素材に対してであって、機械に対しての認可ではないというケースですね。
お医者さんが使っているけれど、医療機器ではないということもあるんですね。
ところで、「腟圧」というのは何を指しているのでしょうね。
腟を締めるというか、閉じるための筋力だと思っていましたが、違うのでしょうか?
そもそも腟というものは完全には閉じられません。
閉じられない?
ですから、閉じる力や締め付ける力を測るということに疑問がありますし、ましてその測定値をもとに筋肉を鍛えるということに対して、医学的な説明をつけることは難しいでしょう。
お医者さんが測るなら、そういうものがあるんだと素直に信じてましたが、「腟圧」というのは「血圧」と同じようなメジャーな指標ではないんですね?
少なくとも医学的な定義はないのではないでしょうか。婦人科疾患の診断項目として腟圧というものはないはずです。ただ、医学のなかで検証されていないだけで、現場の医師が自分流の治療をするための参考値として、何らかの値をとっているということはあるかもしれません。
腟圧が低下している=腟がゆるんでいる、ではないんですね。 遊び感覚で測ってみて低かったらショックですが、そもそも腟圧自体が病気に関係のある数値でないなら、数字が低かったからといって心配したり、落ち込んだりする必要はないですね。
なにか婦人科系の症状があるならば、婦人科を受診しましょう。そうでなければ、フェムテックに関わるグッズに対する医学的な評価はまだ定まっていませんから、現状では説明書通りに正しく使い、効果や使用方法については経験者に話を聞いてみるのがよいと思います。
骨盤底筋がゆるんだせいで腟がゆるむことはないというのは理解し始めた気がしますが、実際に自分の体で腟のあたりが動く感じというのはあります。指を入れれば空洞が狭まった感じもします。あれは何なのでしょう?腟がしまっているのではないのですか?
では、次回は腟の基本について学んでいきましょうか。
はい!よろしくお願いします。
■骨盤底筋が傷ついて起こる病気と性交渉時に感じにくいのは別の話
■「腟圧」は病気かどうかを判別する数字ではない
【参照】
腟けい - 22. 女性の健康上の問題 - MSDマニュアル家庭版この記事を書いた人
性教育・フェムテック領域に興味津々な20代のメンバーで構成される、ピルモット編集部による記事です。