Mieruレディースクリニック院長
柴田 あずさ先生
日本産婦人科学会産婦人科専門医。自治医科大学附属さいたま医療センター、足利赤十字病院産婦人科、自治医科大学附属病院不妊治療生殖医学センター、栃木県立がんセンター産婦人科等で勤務。
「忙しい働き盛りの女性も気軽に立ち寄ることができ、困ったときに頼れる個人サロンのような場所へ」と開業され、診療に従事。
Mieruレディースクリニック院長
柴田 あずさ先生
日本産婦人科学会産婦人科専門医。自治医科大学附属さいたま医療センター、足利赤十字病院産婦人科、自治医科大学附属病院不妊治療生殖医学センター、栃木県立がんセンター産婦人科等で勤務。
「忙しい働き盛りの女性も気軽に立ち寄ることができ、困ったときに頼れる個人サロンのような場所へ」と開業され、診療に従事。
ここ最近、東京都で卵子凍結の助成金制度がはじまったことからニュースで話題にあがることが増えた「卵子凍結」。有名人の方がSNSで卵子凍結をしていることを公表するなど、様々な方に知れ渡る機会が増えたように思います。
「卵子凍結」というワードは知っていても、実際どういうことなんだろう?と思われている方も多いのではないでしょうか。 この記事では、卵子凍結について知り、自分はどうすべきなのか考えていくことに役立てていただければと思います。
卵子凍結とはそもそもどういうことかというと、女性の体のなかにある卵巣から体外に取り出した卵子を凍結させて、自身が出産したいタイミングまで保存しておくことです。 マイナス196℃の超低温で行われる技術であり、卵子の状態を変化させずに保存できるといわれています。
今までは、がんなどの疾患に対して治療を優先させるために保存しておく「医学的適応」で実施する方が多かったのですが、最近では健康な女性が将来の妊娠に向けて行うための「社会的適応」として卵子凍結を選択する方が増えています。
東京都でもこの「社会的適応」の卵子凍結に対して助成金を出すという制度が始まりました。筆者も参加した説明会では、大勢の方が真剣に話を聞き、質問している様子が印象的でした。 また、最近では福利厚生の一環として、卵子凍結費用の補助を開始している民間企業もあります。
卵子凍結最大のメリットはなんといっても「卵子の時間をとめられる」という点です。
妊娠成立には様々な因子が複雑に作用しており、すべてがうまくいかないと妊娠・出産には至りません。妊娠をすることにおいて「卵子の質」は重要な鍵を握っています。
この卵子の質は年齢に関連しています。卵子は生まれる前に一生分が作られ、生まれた後に新しいものが作られることはありません。そのため、自身の年齢と同様に、卵子自身もだんだんと年を重ねています。
卵子の質という観点だけで考えると若い方が妊娠には適しているため、卵子凍結をしていれば、自分自身が若いときの卵子を使用して将来妊娠ができるかもしれない、というのが卵子凍結のメリットとなります。
どのような方が卵子凍結を検討しているかというと、将来の妊娠を希望しているけれども、今はパートナーがいない方や、妊娠出産をすることでキャリアを中断したくない(本来であれば妊娠出産がキャリア中断の理由になってしまう社会を変化させないといけないのですが...)といった方がいらっしゃるようです。
卵子凍結を選択する前に、デメリットを知っておくことも重要です。
健康な方が自ら選択して行う「社会的な卵子凍結」の場合、自費診療となってしまうため医療機関によって金額は異なりますが、相場として数十万円はかかってしまいます。
この金額は、採卵(卵子を採り出すこと)するまでの検査や、薬剤代、採卵時の処置代があります。卵子の状態によっては、採卵できるほどの大きさに育たず、採卵できない可能性もあります。
採卵できた個数によっては、2回以上行われる方もいるかもしれません。加えて、採卵した卵子を保管していくための保管料が年単位・卵子の個数単位でかかることが一般的です。
とても重要な知識としてお伝えしたいのは、卵子凍結をしたからといって、必ずしも妊娠・出産に結びつくわけではないということです。
実際に、凍結した卵子を融解して(解凍、元の状態に戻して)受精→受精卵が胚と呼ばれる子宮内に戻せる状態まで成長 子宮内に戻したあと着床し妊娠→胎内で赤ちゃんが成長→赤ちゃんが誕生するまでに至る確率は4.5~12%程度と言われています。
もちろん年齢や採卵した個数、パートナーの精子の状態によって変わりますが、そんなに高いとは言えません。 また、海外のデータにおいて、卵子凍結を行った人の平均年齢が36-38歳で、その後妊娠した人は20%、その中のほとんどの方は凍結卵子を使用せずに妊娠し、凍結卵子の使用率としては5.2%-7%だったそうです。
卵子凍結をしたからといって、その卵子を使用するかどうかは自由ですし、結果として自然妊娠できている方も多くいるのです。
もうひとつ考えておかないといけないのは、卵子凍結そして妊娠がゴールではないということです。 当たり前のことを言っているように思えるかもしれませんが、妊娠をしたら出産、育児と続いていきます。 卵子凍結で卵子の時間をとめられても、実際の身体は確実に年齢を重ねています。妊娠・分娩において、加齢というのは妊娠合併症のリスクを高めます。 日本にいるとあまり気づくことがないかもしれませんが、妊娠・出産は母児にとって生命の危険を伴うものであり、体にとって大きな負担であることはいつの時代にも変わりません。出産に耐えうる身体というのもやはり若い方が良いのです。
そして産後はすぐに育児が始まります。こちらも体力勝負になります。
育児に関連した体力について様々な支援やテクノロジーを駆使することで和らげることができる方もいるかもしれませんが、基本的にはママとパパお二人が基盤となることを考えるとこの点も考慮しておく必要があるのではないかと思います。
話題となった卵子凍結のことをメリット・デメリットの観点からまとめてみました。
個々人の希望や考え方、ご自身の状況そして身体の状態によって最適な答えはそれぞれ異なります。 産む・産まないの選択は自己の権利です。「産まない選択の自由」が拡大していることは、多様性をお互い認めるうえでとても大切ですが、「産みたい選択の自由」は身体的な時間の制限があることも忘れてはいけない事実としてあります。
自身にとって最善の答えはなにか、悩みは尽きないかもしれませんが「もっと早く知っていれば別の選択ができたのに」となる前に、考えるきっかけや答えを出す一助となれば嬉しく思います。
日本産科婦人科学会が掲載している動画では、データを用いてメリット・デメリットを提示してくれているので、卵子凍結を決定する前には一度ご覧いただくことをおすすめします。
「日本産科婦人科学会 ノンメディカルな卵子凍結」で検索してみてください。また、色んなクリニックが無料でセミナーを実施しているので、社会的卵子凍結を決断するまえにお話を聞いてみるのもおすすめです!
【参照】
日本産科婦人科学会 ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へこの記事を書いた人
助産師。1992年生まれ、東京都出身。 大学卒業後、国立系の病院で5年間助産師として勤務。その後、内科のクリニックグループにて運営・新規開院、ピルオンライン診療立ち上げに携わる。現在は(株)つばめLaboにて女性の健康をサポートするためのサービス開発に従事。