フィデスレディースクリニック
松本智恵子先生
滋賀医科大学卒業。京都大学医学部婦人科学産科学教室に入局後、
大津赤十字病院、洛和会音羽病院などを経て、フィデスレディースクリニックで勤務。
産婦人科専門医、日本女性医学会会員。
フィデスレディースクリニック
松本智恵子先生
滋賀医科大学卒業。京都大学医学部婦人科学産科学教室に入局後、
大津赤十字病院、洛和会音羽病院などを経て、フィデスレディースクリニックで勤務。
産婦人科専門医、日本女性医学会会員。
「生理痛が重く、生理がくるたび憂うつになる……」「痛み止めに頼らず生理痛を軽くしたい」
そんなふうに考える女性は多いと思います。生理痛の感じ方には個人差があり、なかなか他人に理解してもらえないのもつらいですよね。
実は、生理痛にピルが有効というのはご存知でしょうか?
避妊薬として知られるピルですが、ほかにも、生理日の調整やPMSの治療など、さまざまな用途で用いられます。ピルなら、生理痛を軽くできるほか、月経量も少なくできます。
この記事では、生理痛にピルが有効な理由を詳しく解説。さらに、実際にピルを使用する際の費用やよくある疑問点などをご紹介します。
毎月の生理痛を少しでも軽くしたい方は、ぜひ本記事を参考にしていただき、ピル服用を検討してもらえればと思います。
日常生活を送ることが困難なほど生理痛が重い方は、月経困難症という病気の可能性があります。月経困難症には、子宮や卵巣の病気が原因のものもありますので注意が必要です。
月経困難症で生理痛が重い方の場合には、ピルの服用による効果が認められています。また、たとえ子宮や卵巣の病気が原因でなかったとしても、ピルを生理痛の軽減に用いることは可能です。
そもそも、「ピルってどんな薬?」というところからご紹介します。
ピルは、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が含まれた薬です。それぞれ、エストロゲンは妊娠の準備をする、プロゲステロンは妊娠を維持するという役割があります。
この2つのホルモンを継続してとることによって「妊娠に近い状態」を作り出すため、ピルは避妊に役立つのです。
ピルにはホルモンの含有量によっていくつか種類があり、症状によって使い分けられています。エストロゲンが含まれている量が多いものから、「高用量ピル」「中用量ピル」「低用量ピル」「超低用量ピル」「ミニピル」と呼ばれています。生理痛の軽減には、主に「低用量ピル」もしくは「超低用量ピル」が用いられます。
ここからは、ピルが生理痛に効くメカニズムをご紹介します。
まず、生理痛が起こる理由についてご紹介します。生理痛とは、生理(月経)期間に生じる腹痛や腰痛などの痛みを伴う症状の総称で、主に次の原因で起こるといわれます。
生理痛に大きく影響するのが、プロスタグランジンという物質。この物質は子宮を収縮させる作用をもち、主に生理のときに経血を押し出すためにはたらきます。
女性の体では妊娠に備え、生理前になると子宮内膜が厚くなりますが、この子宮内膜からプロスタグランジンがつくられるといわれます。生理のときに子宮内膜がはがれると、プロスタグランジンが子宮を収縮させ、経血を押し出すのです。
プロスタグランジンがなんらかの理由で分泌過多になってしまったり、冷えやストレスなどにより骨盤内に滞ってしまったりすると、生理痛が重くなると考えられています。
また、子宮だけでなく血管や胃腸にも作用してしまいます。そのため、プロスタグランジンが原因の生理痛では、腹痛以外にも頭痛や下痢、吐き気なども生じることがあります。
ピルを飲むと女性ホルモンの大きな変動がなくなり、子宮内膜も厚くならずに安定した状態になります。
生理痛の主な原因となるプロスタグランジンは子宮内膜から作られるため、子宮内膜が薄くなればプロスタグランジンの発生自体も抑えられ、生理痛も軽減すると考えられます。同時に、排出する経血の量も減らせます。
生理痛は毎月のことと我慢してしまう方も多いですが、冒頭で述べたように子宮や卵巣の病気が原因の月経困難症の可能性もあります。そのため、以下のような症状があり、生理痛が重いと感じる方は、ピルを飲む飲まないに関わらず婦人科を受診することをおすすめします。
生理痛は本来、それほど痛くないのが正常といわれます。上記の症状にひとつでも当てはまるなら、婦人科を受診すべきです。もしも婦人科系の異常が見つかれば、適切な治療で生理痛が軽減する可能性もあります。
月経困難症とは、生活に支障をきたすほど生理痛が重い症状のこと。明らかな病気が見つからないものを「機能性月経困難症」、子宮や卵巣の病気が原因のものを「器質性月経困難症」と呼びます。
以下に、それぞれの特徴を示します。
プロスタグランジンの作用が主な原因の生理痛。明らかな病気は見つからないが、重い生理痛の症状があるもの。吐き気や下痢、腹痛を伴う。
子宮や卵巣の病気が原因の生理痛。以下のような病気が原因で起こる。
こうした月経困難症の治療に、ピルは有効です。病気が見つかった場合は、ピル以外にも、症状に合わせて治療が行われることがあります。
避妊薬として用いる場合のピルは保険適用外ですが、月経困難症と診断されれば保険適用となり、費用も3割負担となります。
重い生理痛に悩んでいる方は、ぜひ一度、病院にご相談ください。
重い生理痛の場合は月経困難症と診断される可能性がありますが、たとえ月経困難症と診断されなくてもピルを処方してもらうことは可能です。
ここでは、生理痛の軽減にピルを用いる際の注意点をいくつかご紹介します。
生理痛にピルを用いる場合、ピルにどのような作用があるのかを正しく理解しておきましょう。
ピルには生理痛の軽減のほかにも、ニキビやPMSの改善など、うれしい効果がたくさんあります。ただし、もともとは避妊薬としての役割をもつため、「排卵が抑制される」ということは覚えておきましょう。
生理痛軽減のために処方されたピルでも、正しく飲めば、99%以上の避妊効果が得られます。
ピルを飲み続けても妊娠しにくくなるわけではないですし、服用をやめるだけで排卵は再開します。
生理痛の軽減には主に副作用の少ない「低用量ピル」か「超低用量ピル」が用いられますが、低用量ピルにもさまざまな種類があります。
大きな違いは含まれる黄体ホルモンの種類ホルモン含有量です。また、日本においては、ニキビ治療や避妊などに用いるのか、生理痛や子宮内膜症に用いるのかなど、用途によって自費と保険のピルを使い分けます。
副作用が問題となる場合にはピル以外の治療薬を用いることもあります。
そのため、まずは病院で診察を受けたうえで、医師が処方する症状に合ったピルを服用する必要があります。自己判断でピルを選び、個人輸入などで購入することは絶対に避けましょう。
エストロゲン含有量が少ない低用量ピルなどは、ほとんど副作用の心配はいらないとされますが、ピルも薬ですので、まれに副作用が現れる場合もあります。ピルの副作用は、主にホルモン変化による飲み始めの不調、血栓のリスク(血が固まりやすくなる)があります。
どのような副作用があるのかを以下で詳しく紹介しますので、正しく理解しておきましょう。
ホルモンバランスの変化から、飲み始めの1~2カ月ほどは以下のような副作用が現れることがあります。
<ピルの飲み始めに現れる副作用>
これらの副作用は、体が慣れてくる3カ月頃には次第に軽減していきます。
まれに起こるリスクとして、「血栓症」があります。血栓とは、血液の中に血の塊ができる症状で、脳梗塞などの原因になることがあります。
以下の方はリスクが高くなるため、特に注意が必要です。
<血栓のリスクが高まる人>条件が重なると、さらにリスクが高まります。たとえば、35歳以上で1日15本以上の喫煙者はピル禁忌となっており、ピルを処方してもらうことはできません。ピルの服用が可能かどうかは、病院で相談するようにしましょう。
最後に、ピル服用前のよくある疑問にお答えします。不安に思うことがあれば事前に確認し、病院へも気軽に相談してみてくださいね。
Q1.生理痛に効果がでるのはいつから?
ピルを飲み始めてからすぐに、生理前の子宮内膜の増殖が抑えられるようになります。そのため、効果は比較的早く現れると思っていいでしょう。
低用量経口避妊薬の使用に関するガイドラインによると、「2周期を超えるピルの使用で月経血量が43%減少した」との報告があります。また、実際にピルを飲み始めた次の周期には生理痛が緩和したという方もいます。
このことから、服用1~2カ月以内には生理痛軽減の効果が期待できます。
Q2.ピルを飲むと太る?
「ピルは太る」という噂はよく耳にしますが、ピルには直接的に太りやすくする作用はありません。ただし、飲み始めにホルモンバランスが変わることにより、食欲増進やむくみの症状が出る場合があります。
この副作用は次第に落ち着いていくため、飲み始めの1~2カ月ほど食事を気をつければ、太る心配はありません。
Q3.ピルの費用はどれくらい?
ピルは1カ月分が1シートになっており、基本的にはどの種類でも1シートで2,700円程度です。ニキビ治療や避妊のためにピルを服用する場合は保険適用にはなりませんが、子宮内膜症や月経困難症と診断された場合には保険適用となり、負担額は1シート800円ほどとなります。
ピルの処方には受診が必要になるため、ピルの代金にプラスし、受診時には診察料が1,000〜3,000円ほどかかります。
さらに、子宮や卵巣の病気が疑われる場合にはエコー検査なども必要となるため、4,000円程度の検査費用がかかることがあります。(金額はあくまで目安です)
Q4.ピルの処方には毎月通院が必要?
病院によっては半年まとめて処方してくれたり、オンライン処方が可能であったりするところもあります。そうした病院を受診すれば、必ずしも毎月受診する必要はありません。
ただし、子宮や卵巣の病気があり、治療を伴う場合には定期的な受診が必要になる場合もあります。生理痛でのピルの服用を考えている場合は、隠れた病気がないかを確認するためにも、一度お近くの婦人科を受診するようにしましょう。
ピルは生理痛にとても有効です。重い生理痛がある場合は月経困難症と診断されたり、子宮や卵巣の病気が見つかったりする可能性があるため、一度お近くの婦人科を受診するようにしましょう。
月経困難症や子宮・卵巣の病気が見つかると、ピルの処方も保険適用となり、毎月の負担額は800円ほどと費用を安く抑えられます。
ピルには生理痛の軽減のほかにも、女性にとってうれしい効果がたくさんあります。毎月の生理痛が軽減するだけで、生活の質も日々のやる気もグンと上がりそうですよね。
ぜひ上手にピルを利用し、生理痛に悩まない日々を手に入れてくださいね。
【参考】
低用量ピルの効果は避妊だけじゃない!生理痛・生理不順・過多月経・ニキビにも効果があるの?詳しい効能について、医師が解説します。 | CLINIC FOR (クリニックフォア) 内科・アレルギー科・皮膚科この記事を書いた人
三児の母・ライター。もともと教育関係の仕事に従事していたが、第三子出産を機にフリーライターとして活動開始。中学・高校の教員免許(保健体育)、幼稚園教諭免許、保育士など教育関係の資格を持つ他、メンタル心理カウンセラー資格を保持。教育や健康分野の記事執筆、絵本脚本の執筆など幅広く執筆活動を行う。
著書:「ある日突然、障害児の母となったあなたへ」