コンドームで有名なあの会社が妊活サポート商品を開発!?相模ゴム工業の新商品開発の裏側を直撃

妊娠を望んでいる方にとって「妊活」は馴染みのある言葉ではないでしょうか。
コンドームで有名な相模ゴム工業さんが妊活をサポートする商品を展開されていること、皆さんご存知でしたか?
「コンドーム」と「妊活」は、いっけん両極端に感じますが、根底には相模ゴム工業創業から引き継がれる大きなテーマがありました。
妊活商品の開発、営業に関わっている、営業企画室・広報の山下さん、総合開発部の北田さん、土肥さんにお話をお伺いしました。
日本人カップルに適した形を追求した タイミングエイド

ー タイミングエイドはどのような商品でしょうか
(総合開発部 北田さん)
さまざまな理由で性行為できないがために、お子さんを授かるのが難しい方に使っていただくための医療機器、セルフシリンジ法キットです。
ご家庭で自分自身で採取した精液を、シリコーンゴムでできたカテーテルを用いて、女性の腟内に注入することができます。
ー 開発のきっかけについて教えてください
(北田さん)
きっかけは、2015年頃に「妊娠を促進させられるような家庭用医療機器を開発できないか」と、弊社の社長から指示があったことでした。
調査したところ、海外には自宅で使用できる人工授精器のような医療機器があることがわかったのですが、形状や法律面などの課題があり、海外の医療機器をそのまま日本の女性に紹介するのは難しいという結論に至りました。
ただ、調査を通じて妊娠・不妊に悩んでいる日本のカップルもいるということが分かり、そういった課題を解決するような商品を作っていく必要はあるのだと痛感しました。
最終的に、日本人女性、日本人カップルに適したかたちの商品を自分達で作る必要があると考えました。
ー 日本ではあまり見かけない商品ですが、これまでに似たような商品はありましたか?
(北田さん)
海外では比較的メジャーな方法で、Turkey Baster Method(ターキー・ベイスター・メソッド)等の名前で呼ばれています。
性行為ができない場合は病院へ行くことになるのですが、お医者様によっては「人工授精は必要ない」とシリンジ(注射器)を渡して、「これを使って対処してくださいね」という方もいらっしゃったんです。
ー お家で直接入れてくださいね、ということですか?
(北田さん)
はい。ですが、それはきちんと自宅で使う医療機器として提供されていたものではなかったんです。
シリンジは、元々針をつけて人体に使うもので、女性の腟の中に入れるものではありませんでした。なので、私たちは日本人の女性の体に合うもので、腟に入れることを目的としたものを作りたいと考えていました。
さらに調査をする中で、実は性行為できないがために赤ちゃんを授かれない方がいるということが分かりました。
「2人で」「おうちで」できる妊活を。増加する男性不妊の割合からニーズを確信

ー 性行為ができないというのは、どのような理由が考えられるのでしょうか
(北田さん)
妊活では最初に、女性の排卵日に合わせて性行為をするタイミング法というものが一般的のようでした。ですが、男性によってはタイミング法の決められた性行為によって精神的プレッシャーを感じ、性行為ができなくなることが分かりました。
また女性の場合は、「性行為が苦手」「性交痛がある」などのさまざまな理由で、性行為自体ができないというカップルがいるということも調査で分かりました。
そして、男性の不妊の原因を上から順番に挙げると、1番多いのは造精機能障害(精子を作る機能に問題があるもの)、2番目が精路通過障害(精子が通ってくる道に何らかの問題があるというもの)、3番目が性機能障害(勃起障害や腟内射精障害など性行為をすること自体に関する問題があること)です。このことから、性行為自体ができなくて不妊になっている男性が多いということが分かりました。
これはまさに、性行為の中にある問題で、我々が取り組むべきテーマだろうと開発をスタートしたのがタイミングエイドです。
我々の妊活事業のビジョンとして「2人でできる」「おうちでできる」という2つの課題がありました。
医療機関に行くまでの問題と、性行為の中にある問題を解決したかったんです。性行為に問題があって赤ちゃんを授かれない方をサポートしたいということで、男性不妊の増加については意識していました。
家族の協力も得て改良を重ね、男女ともに使いやすい形状に辿り着く

ー 商品の開発期間はどのくらいでしたか?
(北田さん)
3〜4年くらいですかね。一般的なコンドームの商品企画、開発と比較すると、長い方だと思います。
(営業企画室・広報 山下さん)
コンドームは、1934年に創業してから作り続けています。なので、コンドームの新商品を出すにしても、過去の経験値が生きて比較的早い期間で作れます。ですが、妊活商品は今回初めて手がけたということもあり、他の商品に比べたら長い印象がありますね。
ー 開発の際に苦労した点はありますか?
(北田さん)
社内の人に理解してもらうのが、非常に難しい商品でした。
何度もプレゼンテーションをして、出てきた疑問や質問に対して調査と報告を繰り返し、少しずつ理解してもらうことができました。
ー 今の完成品の形状は、開発期間内に何度も改良していったのでしょうか?
(北田さん)
完成品の形状になるまで試作を重ねました。
3Dプリンターを使って、少しずつ形を変えながら作っていきました。どうしたら女性が使いやすい形になるか、どんな形が使いやすいか、ということを意識しながら作りました。
例えば、女性自身が操作するつばの部分を爪が長い女性でも持ちやすいようにするには、つばの部分を大きくしなければならないなどですね。きちんと注入できたか分かるためには透明にすべきだとか、長さはどうすべきかなどを考えました。
タイミングエイドを使う目的は、精液を女性の子宮口の近くまで届けることなので、チューブの長さは腟の長さに合ったものが必要です。
また、性交痛がある方が使う場合もあるので、チューブは太すぎてもいけないし、細すぎると子宮口に入ってしまう、ということで試作と評価を繰り返しました。
ー 先端が膨らんでいるのにはどういった理由があるのでしょうか?
(北田さん)
子宮口に入らないようにわざと大きくしてあります。
また、腟の部分に入るところは表面をなめらかに加工して、抵抗がないように工夫しました。
ー 商品テストは模型を使ったのでしょうか?
(北田さん)
最終的には私の奥さんに使ってもらいました。
私が妊活サポート商品を開発したいと思ったきっかけとして、2015年くらいに子供を授かるまで、奥さんが1年ほど子宮内膜症の治療をしていたという経験がありました。私も一緒にクリニックに行って検査を受けた経験があり、取り組みたいと思った企画でした。
実使用をしてもらったのは奥さんだけなのですが、形やチューブの柔らかさ、デザインの評価や説明書のわかりやすさなどは、女性社員に相談しながら進めていきました。
タイミングエイドは「2人いないと成立しない医療機器」なので、男性に対する配慮も必要です。男性が容器に精液を採取して、注射器で吸ってからカテーテルで注入するという流れがあります。精子が精液を採取しやすいように採取するカップは大きい方が良いですし、採取した精液は全て注射器で吸い込めるように、カップを斜めに置けるスタンドを用意する工夫をしました。
女性社員も加わり「女性が手に取りやすいもの」に

ー 開発の体制としては何名でされていましたか?
(北田さん)
商品開発をするのは男性ばかりでして、私を含めた3名です。
(総合開発部 土肥さん)
私は今年度の4月から入社しました。今後は、商品開発に女性の意見も取り入れたいと考えています。
(北田さん)
開発していく中で、やはり男性ばかりでは限界があると感じていました。
名前やデザインに関しては営業企画室が担当していました。そこには女性が2名いるので加わってもらい、パッケージや取扱説明書の表現を考えてもらいました。
営業部門にも女性がいるので、どのように販売したらいいか意見を聞いたり、フェムテックを扱っている企業にも行ってもらいました。
デザインでは、色々なアイデアが出て「ボタニカルなデザインにしよう」「女性らしいデザインにしよう」などの意見がありました。ただ、今後はオンライン販売だけではなく店頭での販売も考えているので、店頭に並んだときに、これは妊活のための商品だということが分かってもらえるようなデザインにしたいと考えていたんです。 最終的には現在のように、妊娠検査薬のようなメディカルなイメージのデザインとなりました。

妊娠の確率は性行為した場合と同じ確率ー排卵日を中心とした前後3日間で使用してほしい
ー どのタイミングで使うとよいのでしょうか?
(北田さん)
タイミング法の性行為ができなくて困っている方に使って頂く商品ですので、排卵日を中心の日として前後3日間それぞれ1本ずつ使っていただくことを想定しています。
従来の潤滑ゼリーは精子に良くない?「妊活を邪魔しない潤滑ゼリー」ポジティブサポート

ー もう一つの妊活サポート商品であるポジティブサポート(妊活用潤滑ゼリー)について伺います。タイミングエイドとポジティブサポート(妊活用潤滑ゼリー)は同じタイミングで開発されたのですか?
(北田さん)
ポジティブサポートの方が後です。
弊社では、性行為用の潤滑ゼリーがあるのですが、妊活に着目して開発された商品ではありませんでした。
「実際に妊活されている方が、従来の潤滑ゼリーを使ったらどうなのだろうか」と調べていくうちに、実はローションや潤滑ゼリーといったものは、精子にとってはあまり良くないということが分かりました。
ゼリーは粘り気があり浸透圧も精子と異なります。ゼリーの中は精子にとっては良くない環境だったのです。
海の中に入ると指がシワシワになるのを想像してください。これは人間の細胞と海水の浸透圧が異なることが原因で、人間の体内の水分が海水に出てしまっている状態です。これと同じようなことが潤滑ゼリーと精子の間でも起こります。また、粘り気の強いゼリーの中では精子の動きは悪くなってしまいます。
妊活されている方の中にも性交痛がある方はかなりいらっしゃるので、そういう方にも安心して使っていただける「妊活を邪魔しないゼリー」を世に出そうと着手したのが、ポジティブサポートでした。
「性行為の中にある課題を解決する」コンドーム開発と共通する会社の使命
ー コンドームで有名な相模ゴムさんが妊活をテーマにした商品を出したのは驚きでした
(山下さん)
現社長の祖母にあたる、創業者の松川サクという女性は、戦後の時代のなかで女性自身の健康、女性の権利を守る手段としてコンドームの製造・販売を始めました。当時の女性、家族計画のニーズは望まない妊娠、性感染症の予防が求められていました。
一方で、"今の時代求められていることはなんだろう"と考えたときに、「2人が妊娠を望んだときに赤ちゃんを授かれる」ということが求められているのではないかと思いました。 私たちはコンドームを通して、性行為のなかにある課題を解決してきた企業です。なので、妊活サポート商品も性行為のなかにある課題を解決できるものがいいだろうと考えました。
お客様からは驚きの声も
ー 実際に買われた方の声はどのようなものでしたか?
(山下さん)
ご購入される方は、20代後半から30代の方が多く、ポジティブサポートに関しては、精子の活動までケアしている商品ということで「こんな商品があったとは知らなかった!」というお声をいただきました。
ー 今後どのような形で販路を広げていく予定がありますか?
(山下さん)
まずは商品、ブランド認知が大事になってくると思っています。今まで行えなかったプロモーションや広告などの宣伝が必要と考えています。
また、お店での販促物を用意すること、ネット販売での効果的な方法をチーム間、販売先様とも考えたいと思います。
ー 今後、妊活をテーマにした他の商品の企画の予定はありますか?
(山下さん)
同じようなコンセプトの商品も検討、開発中です。
妊活を始めたばかりの方をターゲットにしていますので、根底の部分のコンセプトが同じような商品の幅を広げて、増やしていければと思います。
創業時からのぶれないテーマ「家族計画」

(山下さん)
今回我々が妊活商品を出したことで、当初は「コンドームは避妊具なのに、今回は妊活がテーマの商品ですか」「真逆なのでは」と販売先様から言われたことがありました。ですが、我々は真逆だとは思っていません。
常に根底には、「家族計画」というものがあります。
今、子供が欲しくないのに子供ができてしまうというリスクを減らすため、弊社はコンドームの製造販売を行ってきました。そして、今取り組んでいる妊活商品は、子供がほしいと思ったときの家族計画をお手伝いできる商品です。
今後も様々な方面で家族計画をお手伝いしていきたいと思っています。
今後も困っている方に寄り添った商品開発を

(北田さん)
不妊当事者の方の気持ちを理解することが大事だと思い、不妊ピアカウンセラーという資格を1年くらいかけてとりました。その中で、不妊を経験された女性と話す機会があったのですが、「男性って分かってないよね」と指摘されることがありました。
そのときに、男性は妊活に悩んでいる女性に対して十分に寄り添えていないんだろうなと感じました。
女性が本当に困っていることに、寄り添えているのかと考えると、まだそうではない部分はあると思うんです。ですが、今年度からチームに女性も入ってきましたし、今後も困っている方たちに寄り添えるような商品開発を心がけていきたいと思っています。
相模ゴム工業株式会社オフィシャル販売サイト (サイトからご購入可能)
https://www.sagami-shop.com/SHOP/MO0013.html
この記事を書いた人

性教育・フェムテック領域に興味津々な20代のメンバーで構成される、ピルモット編集部による記事です。