効果があるフェムテックグッズって、あるの?

公開日 2022-12-23 更新日 2022-12-23

記事監修医

RN先生

産婦人科医として産科・不妊症・婦人科がんまで幅広く診療に従事。「ゆりかごから墓場まで」をモットーに様々な年代の女性に寄り添った診療を心がけています。 多数の臨床・研究の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。

腟トレをすると、感じやすくなる?

前回のお話では、腟の周りにある骨盤底筋のなかには自分で動かせる筋肉があるということでした。
腟トレには感度をあげる効果があると聞きますが、筋肉を鍛えると感じやすくなるのでしょうか? 前々回では、性交渉時の感覚と骨盤底筋が傷つくことによって起こる病気とは別の話だと聞きましたが……。

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性交渉時の感覚と疾患とは、厳密に分けて考える必要があります。

「不感症」というと何だか病気の名前のようですが、これは病気ではないのですか?

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「感じにくい」「性的快感が得られない」というのは、広義には性機能障害と呼ばれる病気に含まれることがあります。ただし、内臓を支える組織の衰えや排泄トラブルとはまた別の問題です。

「内臓を支える」「排泄をコントロールする」「性的な快感を得る」というのは、それぞれ別の体の仕組みだということでしょうか。

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より性的な快感を得るというのは、女性のオーガズムなどの話になってきます。 骨盤底筋というのは色々な筋肉の総称だということは覚えていますか?

はい。何種類もの筋肉が集まっているということだったと思います。動かせる筋肉と動かせない筋肉の両方があるんでしたよね?

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骨盤底筋のうち、球海綿体筋(きゅうかいめんたいきん)という腟の付近にある筋肉は、性的興奮時に痙攣(けいれん)のように小刻みに動くことが知られています。
この筋肉はある程度、自分で動かすこともできます。

すると、骨盤底筋を鍛えて感度をあげるというのも、あながち間違いではないのですね。

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性的興奮時の球海綿体筋については、医学的にはまだ完全に解明された領域ではありません。また、広義の性機能障害として、十分な性的刺激があるにもかかわらず、オーガズムを得られずに苦痛を感じるオーガズム障害がありますが、これについての医学的な知見というのは多くはないのです。

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つまり、快感を得るためのエクササイズやグッズとして、医学的におすすめできるものは基本的にないということになります。

トレーニングはできるけれど、医学的におすすめできるグッズはないというのはどういうことなのでしょう?

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もし医師が推奨していたとしても、それは「医師の●●先生がおすすめするグッズ」「医師の●●先生がやっているエクササイズ」であって、医学的に効果が証明されたものではないということです。

●●先生からはおすすめでも、産婦人科の別の先生はおすすめしないかもしれないということですか???

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「医学」についての理解を深めると、その答えがわかるかもしれません。

性にまつわる医学はなぜ発達しない?

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医学が発達していくには、まず「病気」の存在があります。
たとえば「がん」はそれで亡くなる方も多く、明らかに「病気」ですよね。医学はこういった「病気」を克服するために発展してきました。

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一方「風邪」も病気ではありますが、「がん」と比べるとずっと(医学的に)正常に近い状態だとイメージできると思います。医学というのは正常に近づくほど特効薬がなかったり、対策が立てにくかったりするのです。

「がん」より「風邪」の方が治しにくいのですか?

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風邪に特効薬がないのは、風邪をなんとかしようとすると、体の正常なところにもダメージが出てしまうからです。がんの手術や抗がん剤での治療でも同様に正常なところにダメージは出るのですが、明らかに正常ではない「がん」があるために、「がん」かどうかを検査したり、治療したりすることが可能になるのです。

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たしかに、インフルエンザやコロナの検査はありますが、風邪の検査というのは聞きません。

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病気かどうかを検査できなければ、その病気を治療することもできません。

仮に薬を飲んで本人的には体の調子が良くなったとしても、それは学問的には「病気が治った」とはいわないのですね。

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性機能障害などの性に関わる分野での医学が発達していないのは、どこまでが正常でどこからが病気なのか、医学的に正常な状態と病気の状態の境界線を引くことが難しいということが背景にあります

たしかに「がん」グループと「風邪」グループだったら、不感症は明らかに風邪グループですね。
「感じにくい」ことで死んでしまうということはないし、どのぐらい気持ちいいかで正常とか異常とか言われても困る気がします。

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病気の調査や研究を行う方法が限られていることも、研究が進まない要因のひとつです。 研究でよく行われる方法のひとつに動物実験がありますが、動物は人間と違って発情期にしか性交渉を行いません

発情期の動物しか対象にならないと、実験できるチャンスは少なくなりますね。

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また、性的な快感という主観的なものを客観的に評価するにはアンケートで「10点満点で何点ですか?」などと聞いて数値化する必要があるため、この領域では人間でしかデータがとれないということになります。

実験動物に「気持ちよかったですか?」と聞くわけにはいかないですもんね。

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人間でしかデータがとれないうえ、人間でもデータがとりにくいのです。
「がん」であれば通院する患者さんも多いですし、研究に協力してくれる患者さんも多いですが、性交渉での感じ方についての研究のために情報提供をしてくれる人がどれだけいるかと考えると、データの数が少ないことがわかると思います。

アンケートの内容を考えると、どんなにデータが漏れないとしても、積極的に協力できるものではないですね。

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仮にがんばって協力者が集められたとしても、そういう研究に協力してくれる稀有な方々が研究対象になりますから、データに偏りが生じます。その研究の結果をすべての女性にあてはめるのは無理がありますよね。

誰がやっても同じ結果になるような実験ができないんですね。
もしも快感についてのアンケートに答えるのを恥ずかしいと思わない人が多い国があって、その国で多くの女性から集めたセックス感度についてのデータがあったとしても、その結果を私にはあてはめないでほしいなと思います。

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さらにいうなら、国が予算をつけることも難しいでしょう
「がん」の研究であれば、国も研究などの予算を出しやすいですが、広義の性機能障害の研究には国も予算をつけにくいですよね。

がんやコロナは選挙の公約でも見かけますね。
「セックスは人類の幸福!性機能障害に国家予算を!」とか掲げた政治家がいても、あんまり投票しようという気はおこらないです。やっぱり致命的ではない分、後回しにはなってしまいますね

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そういったことを研究している医師が集まる学会もかなり昔からありますが、医学全体から見ると分野としてはどうしてもマイナーにならざるを得ないのです。

この分野で医学的知見が少ないというのは、研究がしにくいという事情もあったのですね。

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腟圧の低さに悩む必要はない

医学的におすすめのトレーニング方法やグッズがないというのはよくわかりました。
では逆に、腟トレグッズの使い方を誤って怪我や病気につながる例などはありませんか?タンポンも衛生的に扱わないと、雑菌から病気になることもあると知り、トレーニンググッズも大丈夫なのか気になりました

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記事誘導
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腟のなかに長期にわたってモノを入れっぱなしにすれば弊害は起こると思いますが、これも医学的にどのぐらいの期間なら安全なのか、といったことは分かりません。何かデメリットを心配するなら、実際にやっている人に体験談を聞いてみた方が参考になるでしょう。

フェムテックについて、医学的根拠をもって言えることはやっぱり少ないんですね。

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医学的に質の高い根拠を得るには、まず前提となる小さな知見を積み重ね、さらに数年がかりの大きな臨床研究をおこなうというプロセスがあり、医師としてのキャリア30年すべてをかけてやっとできるかどうかというレベルの話です。フェムテックはまだ新しい領域で、ここに医学的な根拠を求めるというのは基本的に無理があります

フェムテックは全部ウソということですか?

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ただ、一概に根拠のないものとも言い切れないんですよ。
現状では病気を治したり予防したりするための医療機器は出てきていませんが、今後こういったものの中から、医学的にも有用なものが出てくる可能性はあります。

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最近ではフェムテックの流行に伴い、市場からお金が流れ込んでくるようになりました。日本で最も大きな産婦人科の学会である日本産科婦人科学会でも、今年初めてフェムテックの企業が協賛にでてきたくらいです。

研究に必要なお金を、企業の協力で集めるという可能性が生まれたのですね。

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こういったなかで、フェムテック領域に注目する医師も増えてきています。30年のキャリアすべてをかけて医学の発展に尽くすようなことをできる医師がどれだけ増えていくかを考えると、やはりすぐにはフェムテック領域での研究が進むことは難しいかもしれませんが、世の中も変わってきていますから、医学としても発展していくといいなとは思います。

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フェムテックの広まりを受けて、関連商品を医学的に適切に評価するための枠組みを検討する専門家組織も出てきています。
2022年春には、医療機器のなかに新たにフェムテックに関連する2つのカテゴリ「骨盤底筋訓練器具」「家庭用膣洗浄スポンジ」が設けられることが決まりました。

承認を受けて「医療機器」として腟トレグッズを製造・販売できるようになったのですね。

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今後こうした制度運用が定着・普及し、医療機器の販売実績や関連する知見がたまっていけば、もしかしたらアドバイスをお伝えすることもできるようになるかもしれません。
ただ、現状ではグッズの使用について、医学的に安全を保証することは難しいため、必ず説明書に沿って使うことをお勧めします

不幸な事故が起こらないようにするためにも、正しい使い方をよく理解してから試すことが大事ですね。

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効果や使用感については化粧品と同じ感覚で考えるとイメージしやすいなと思いました。
個人差が大きいから、使うことで自分がハッピーになれるなら使えばいいし、体に違和感や異常がでてくるなら無理せずに使用を中止して様子をみるのがよさそうですね。

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医学が解決してあげられる問題とヘルスケアビジネスとを完全に区別するのは難しいですし、その必要もないかもしれませんが、信頼できる情報にアクセスできるリテラシーはぜひ身に付けてもらえたら嬉しいです。

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医療者だからといって、必ず正しいことを言うわけではないですし、医学も進化して変わっていくものです。今こうしてお伝えしたことも少ししたら医学的に否定されるかもしれません。

自分のからだのことをよく知って、新しい情報やグッズも上手に取り入れていけたらと思います。
RN先生、最後までありがとうございました!

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連載を終えて

■女性の骨盤底筋は傷つきやすい
■でも、骨盤底筋を鍛えたら万事解決ではない
■健康法や美容法に正解はない
■自分のからだとこころの声をよく聞くことが大事
■医学も社会も変わっていくもの
■引き続き、勉強を続けていこう!

【参照】

科学としての医学 - 26. その他の話題 - MSDマニュアル家庭版
Q1 医療機器にはどんなものがありますか。 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

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